第15章 「その悔いは花冠に変わる」
「――はっ!」
刃は呪霊の肩口を裂いた。
濁った黒い液体が勢いよく飛び散り、それがアスファルトの地面にぱしゃりと落ちる音がした。
呪霊が、低く呻いた。
(効いてる……!)
確かに、手応えがあった。
あの歪んだ肉にちゃんと刃が入った。
私はこの手で、“呪霊”を傷つけた――!
(いける……! わたしでも、倒せるかもしれない!)
初めて感じた確かな実感。
逃げるだけじゃない。
守られるだけじゃない。
“わたし”の力で、誰かを守れるかもしれない。
呪霊の腕が大きく振り上げられる。
それに反応して私は一瞬、目を瞠いた。
腕の動きに気を取られた次の瞬間、別の触手が足元を狙って飛び込んできた。
「――っ!」
とっさに下がろうとした足がもつれ、私は体勢を崩す。
……その刹那。
「しまっ――」
叫ぶ暇もなく、その鋭い先端が私の右脇腹を横に薙いだ。
「――っ、あ……!」
衝撃に肺から息が抜ける。
体がよろめき、左手から小太刀が滑り落ちコンクリートの上を跳ねた。
焼けるような痛み。
制服の下で血が滲むのがわかる。
(……まずい……)
鼓動に合わせて、傷が脈打っていた。
赤黒い血がアスファルトの上にぽた、ぽたと音を立てて落ちていく。
手足の感覚が遠のいていく。
(……視界が、霞んで……)
目の前の景色が、ぐにゃりと歪む。
あれほど濃く感じられた呪霊の気配も遠くなる。
力が抜けていく。
このまま、わたしが倒れたら――
(あの子もやられる……!)
その時、頭の中で誰かの声がしたような気がして目を閉じる。
それはあの訓練場での会話――