第15章 「その悔いは花冠に変わる」
しゃがみこんで拾い上げると、それは貝殻のキーホルダーだった。
淡い色の貝殻が、丸いガラス玉と一緒に揺れている。
(……誰かの落とし物かな?)
そのとき、水原さんの声が背中越しに届いた。
「さん、何か……感じますか?」
私はそれをポケットにしまい、視線を海へと戻す。
眼鏡をかけて近辺に注意を向けながら、微かな揺らぎや気配を探る。
「……今のところ、何も感じませんね」
「聞き込みでも、“夜に声が聞こえた”という証言ばかりでしたから、もしかすると、日中は現れないのかもしれません」
水原さんは頷きながら、腕時計をちらりと確認した。
「……そうですね。ただ、申し訳ないのですが、夜は別件の任務が入っておりまして。同行は難しそうです」
「あ、そうなんですね」
少しだけ考えてから、私は軽く首を振った。
「なら、大丈夫です。夜は私ひとりで確認しますので」
「……いや、それは。大丈夫ですか?」
少しだけ眉を寄せながら、水原さんがこちらを見る。
「はい。調査任務ですし、それにこの程度なら問題ありません」
強がりではなく、本心だった。
もちろん気を引き締める必要はあるけれど、恐れが勝つほどではない。
「……わかりました。念のため、何かあったらすぐに連絡して下さいね」
「ありがとうございます」
私は小さく笑って応えた。
風がまた吹き抜け、潮の匂いが髪を揺らす。
陽の光はまだ眩しい。
けれど、この場所に夜が訪れたとき――
そこに何が現れるのか。
確かめなければならない。