第15章 「その悔いは花冠に変わる」
「ボンッて、爆発音みたいな音がしてな。慌てて消火器持って駆け寄ったが、あれはもう手に負えなかった。あっという間に火が回って……乗客が叫び声あげながら逃げ惑って、泣きながら……」
男は唇をかみ、短く言葉を飲み込んだ。
「それでも、なんとか冷静に誘導しようとしたが、もう無理だった。火の熱で船体が傾いて……そのまま、何人も、海に投げ出された」
「……」
「浮き輪を投げても間に合わねぇ。
目の前で、大人も子供も――次々と、海に沈んでいったんだ」
ぐっと奥歯を噛みしめるように、男は目を閉じた。
「……あれは、地獄だったよ」
静かに重く、静かに落ちるその言葉に私も息を詰めるしかなかった。
静かな町の空気の中で、その語り口だけが異様に生々しく響いた。
「俺は……助かったけどな。たまたま近くに浮かんでいた浮き輪に掴まって――」
言いかけたところで、男の口がふっと止まった。
そこにあったのは、言葉ではない“沈黙”だった。
苦いものを喉の奥に押し込むように、男はゆっくりと視線を逸らす。
私はその空白の続きを思わず問いかけてしまった。
「……どうしました?」
声をかけた瞬間、男のまなざしが鋭く揺れた。
だが、それもほんの一瞬のことだった。
「――いや。なんでもない」
そう言って男は口を噤み、また煙草に火をつけた。
今度は成功した。
火種がかすかに揺れる。