第14章 「その花は、誰のために咲く」
扉の閉まる音が、耳の奥に残ってる。
それ以外、何も聞こえない。
先生、呆れてた。
心配してくれてたのに。
ずっと、わたしのこと、見てくれてたのに。
あの言葉だってそうだ。
「好きだから」「大事にしたいから」
あんなふうに、真っ直ぐ言ってくれたのに。
なのに、わたしは何も返せなかった。
怖くて、ただ黙っていた。
先生のこと、信じてるのに。
それなのに、全部打ち明けるのが怖かった。
拒絶されたくなかった。
嫌われたくなかった。
その場に、うずくまるようにして座り込む。
腕に顔をうずめたら、ひとつ、息がこぼれた。
私……伏黒くんも、先生も、結局傷つけてる。
ぜんぶ、自分の弱さと浅はかさ。
こんなわたしに、誰かの悲しみを救うなんて……
そんなこと、できるわけない。
床に、涙がぽつりと落ちた。
一滴、また一滴
しみが、にじんで広がっていく。
その広がっていく滲みを、ぼんやりと見つめていた。
何も考えられなくて、何も動けなくて。
でも、今流れているこの涙だけはわかる。
“誰かのもの”じゃないってこと。
これは、わたしが、
わたし自身の悲しみに、泣いた涙。
苦しくて、悔しくて、
でも、それ以上に――
情けなかった。
しみが広がる音すら聞こえるような、そんな静けさのなかで、
黙ってその涙を見つめることしかできなかった。
そして、夜は深く、深く――
わたしを取り残したまま、何も変えずに過ぎていった。