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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第14章 「その花は、誰のために咲く」


***


……バタン、と背後で扉が閉まる音が響く。


夜の廊下は静かすぎて、その音がいつまでも耳に残った。

 
足音だけが響く長い廊下を歩く。
でも、しばらく進んだところで、ふと足を止めて――

 

「……っっっ、むっず!」

 

五条は腹から溜め込んだ吐息とともに、しゃがみ込む。
手で後頭部をがしがしとかいて、ため息をひとつ。


(マジで……あの年ごろの子、何考えてるの?)

 
けど、のあの顔――
あれは、ただの疲れとか、任務のストレスとか、そういう軽いもんじゃなかった。

  
(……キスして、あんなふうに泣かれたら……)


あの拒絶は、結構こたえた。
あんな顔、させたかったわけじゃないのに。



「……この僕が……凹んでんじゃん」



そう呟いて、自分で笑った。

 
(だけだよ、こんなに僕の感情、ぐちゃぐちゃにすんの)

(……やっぱ、京都でちょっと――いや、かなり、強引だったか?)


そんなことを思っていた、そのとき。

 

「五条先生?」



背後から、不意にかかった声。

振り返ると、廊下の先に恵の姿があった。

 

「……恵?」

「何してるんすか、そんなとこで」

「いや、別に?」



ごまかすように立ち上がると、恵はほんの一拍置いてから真っ直ぐに見つめて言った。

 

「――伝えておきたいことがあります。
 の件で……」

 

夜の空気が、ぴんと張りつめた。
五条の表情から、笑みが消えていく。






夜の廊下には、もう足音も声もない。
二人の影だけが、薄い月明かりの中に静かに伸びている。



風も、時間も、どこか遠くへ行ってしまったような――
そんな、言葉より重い沈黙が、そこにあった。
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