第14章 「その花は、誰のために咲く」
「……ん?」
そんな空気を察してか、先生が眉を寄せた。
「……なに? ケンカでもした?」
冗談めかしてそう言う声に、わたしは答えられなかった。
そして伏黒くんが、静かに立ち上がる。
そのまま、先生のほうも見ずに、迎えの車へと歩き出していった。
その背中に、五条先生が声をかけた。
「恵?」
振り向かずに、伏黒くんが短く言った。
「……今後、との任務は外してください」
その言葉だけを残して、彼は迎えの車に乗り込んでいった。
車のドアが閉まる音が、どこまでも重く響いた。
わたしは、何も言えなかった。
ずっと手を強く握ったまま、下を向いていた。
「……」
先生の声が、すぐそばで落ちる。
「恵と、なんかあった?」
顔を上げられないまま、小さく首を振った。
「いえ……わたしが、全部悪いんです」
その言葉しか、出てこなかった。
ほんとうのことを、どう伝えればいいのかわからない。
言い訳になってしまいそうで、怖かった。
先生は、何か言いかけたようだったけれど――
「五条さんっ」
伊地知さんが、慌ただしく駆け寄ってくる。
先生はわたしに視線を残したまま、ふうっと一つ息を吐いた。