第14章 「その花は、誰のために咲く」
「……伏黒くんの気持ち、私もわかるから。もし……わたしに……」
言葉が詰まる。
けれど、唇だけが先に動いた。
「……なにか、できることがあるなら……」
その瞬間――
バシンッ――
手が、振り払われた。
「津美紀のことは……お前には関係ない」
「……気安く、“できることがある”とか言うなよ。
お前に、俺の気持ちの何がわかる……!」
その言葉が、胸に突き刺さる。
目の奥が、熱くなる。
でも、それは違うと言う資格さえ――今のわたしには、なかった。
「……ご、ごめんね……」
それしか、言えなかった。
唇が震えて、下を向くしかなかった。
もう、伏黒くんの目を見ることなんてできなかった。
「――おーい! 、恵! 生きてるー?」
その声に顔を上げると、視界の先に見えたのは――
「先生……」
すぐそばにいた伊地知さんが、駆け寄る先生に深く頭を下げた。
「申し訳ありません、五条さん……!」
声が震えている。
伊地知さんは続けた。
「調査が不十分だったのか、想定よりも呪霊の階級が高く――
二人を、危険に晒してしまいました……!」
先生はその言葉を静かに聞きながらも、わたしたちの顔を見ていた。
目隠しの奥の視線が、じっとこちらを探るように。
そして、ふうっとわざとらしく息をついた。
「んー、まぁ、それは後でまとめて報告して。それより、二人とも動ける?」
ゆっくりと、わたしと伏黒くんの前にしゃがみ込む。
「……恵、ボロボロじゃん。血の気なさすぎて、ゾンビみたいになってるよ?」
そう笑った五条先生に、伏黒くんは視線をそらすだけだった。
「ま、生きてるだけでも今回は合格点じゃん?」
そう軽口を叩く先生。
だが、わたしたちの間にある、空気はどこかぎこちない。
わたしも、伏黒くんも何も言わないまま。