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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第14章 「その花は、誰のために咲く」


「怪我、大丈夫……?」

「……あとは、五条先生が引き継ぐって」



そう伝えると、伏黒くんの表情がほんのわずかに動いた。
けれど、何も言わずにただ目を伏せている。


伏黒くんの制服の袖を裂き、応急処置の準備を進めていく。
深い傷が、肩口から伸びていた。
血が止まらない。
 

伏黒くんは何も言わずに、じっとわたしの手元を見ていた。
それが、痛みで黙っているのか、別の何かを考えているのか――
わからなかった。

 
だけど、包帯を巻き終えようとしたそのとき。

 

「……どうして、津美紀のこと知ってる?」

 

その声は、低くて、どこかひっかかるような響きだった。

 

「……え?」

 

手が、止まる。

 

「誰にも……言ってない。津美紀のことは、誰にも……」

 

(……っ)

 

言葉に詰まった。
どう言えばいいのか、わからなかった。


でも、黙っているわけにもいかなかった。

 

「……あの……最近、わたし……」

 

喉が乾いて、息がうまく通らない。
それでも、言葉を絞り出す。

 

「この力のせいなのか、人に、触れると……その人の、悲しみとか、痛みとか――そういう記憶が、流れ込んでくるようになって……」

 

伏黒くんの表情が、ほんの少しだけ動いた。

 

「……さっき、伏黒くんの手に触れたとき……見えてしまって」

 

ほんとうは言うつもりなんてなかった。


でも、あの時――
あのときだけは、どうしても伏黒くんを説得したくて。

 

「……ごめんなさい。見るつもりは、なかった。……でも、どうしても……あの時は……」

 

伏黒くんの目が、鋭くなる。

 

「――何を見た?」

「……つ、津美紀さんが、ベッドで眠ってて……
 何か、呪いみたいなものに、縛られてるような……」

「……見たことは、忘れろ」

「で、でも……」



言いかけて、喉が震える。
でも、それでも――


(……何か……何か、できることがあるなら)

 
心の奥から、湧き上がってきた。
痛みを知ってしまったから。
見てしまったから。
なかったことには、もうできなかった。


わたしは、伏黒くんを正面から見つめた。
それでも、声は震えてしまう。
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