第14章 「その花は、誰のために咲く」
――ずきっ。
額の奥に、唐突な痛みが走った。
(……っ!?)
急に、何かが内側から頭を掴まれたような感覚。
視界の端が揺らぐ。
(なんで……誰にも触れてないのに……)
一瞬、足がもつれかけて、立ち止まりそうになる。
けれど、その“ほんの数歩の遅れ”が――
「っ――!」
逃げるわたしへ向けて、
背から伸びた“瘤”が牙のように開き、血と肉を裂いて襲いかかる。
「……玉犬っ! 食い止めろ!!」
伏黒くんが叫んだ次の瞬間――
玉犬が、飛翔する瘤へとぶつかりかかる。
肉と骨のぶつかる鈍い音。
それでも、その瘤は速度を緩めず、
わたしの背中へ、まっすぐに迫ってくる!
(――だめっ、逃げきれない……!)
そう思ったそのとき。
視界が、ぐらりと揺れる。
伏黒くんが私の背中を強く押し出した。
それと同時に、どん、と何かがぶつかる重い音。
気づけば、床に倒れこんでいた。
顔を上げた先。
そこには、瘤の直撃を受け、吹き飛ばされた伏黒くんの姿――
教室の扉に叩きつけられたその身体は、
制服の肩あたりが裂けて、血が滲んでいるのがわかる。
「う、ぐ……っ」
彼が低く呻いたのを聞いて、息が止まりそうになる。
「伏黒くん!!」
慌てて駆け寄ろうとするわたしを、彼は強い目で制した。
「俺のことは……いい……から……っ……逃げろっ……!」
伏黒くんがそう言った瞬間、呪霊の巨大な瘤が
再度、彼を打ち据えようと振りかぶった。
玉犬が吠える。
けれど、片脚を引きずっていて、満足に動けない。
「伏黒くんっ!!」
わたしは、とっさに飛び込んだ。
すぐ目の前に迫る腕。
その軌道の先に、動けない伏黒くんがいる。
間に合って――!
呪霊の腕が振り下ろされる、その瞬間――