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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第14章 「その花は、誰のために咲く」


ぬる、とにじむように現れたその呪霊は、
明らかに、ただの二級ではなかった。


異様に長い手足。
歪んだ面のような顔に、黒く濁った目がいくつも浮かんでいる。
頭からは、ねじ曲がった鉄骨のような角。
身体の半分は人のようで、もう半分は獣のように崩れていた。


何かを引きずる音の正体は、その背後から延びる、肉の塊のような何か――
骨と内臓が混ざり合ったような、忌まわしい瘤だった。



「……っ、なんなの……あれ……」



思わず、小さく声が漏れる。


呪霊の視線がこちらをとらえた瞬間、背筋に冷たいものが走った。
ぞわりと、悪寒が全身を這い上がってくる。


……これは、二級なんかじゃない。


わたしの中の何かが、はっきりとそう告げていた。



「……」



隣で、伏黒くんの声が鋭く響いた。



「お前は逃げろ」

「……え?」



彼の視線は呪霊から逸らさず、
わたしに言い聞かせるように続けた。



「……あれは、二級なんかじゃない。おそらく、準一級以上、いや――特級の可能性もある」

「お前はすぐに帳の外に出て、伊地知さんに連絡。五条先生を呼んでもらえ」

「で、でも……伏黒くんは?」

「俺はここで時間を稼ぐ」



その言葉に、返す言葉が詰まる。


玉犬が、呪霊の一挙手一投足を警戒するように、牙を剥いて唸り声を上げる。


でも、伏黒くんをこのまま一人にするなんて……


足が、動かない。
頭では理解していても、心が拒んでいた。


この場に残っても、わたしは確実に足手まといになる。
それでも、彼を置いていくことが怖かった。



「行けっ、!!」



そう怒鳴られた瞬間、覚悟を決めた。

 
(……ごめん、伏黒くん)


わたしは――

 

「……絶対、死んじゃダメだよ」



それだけを叫んで、振り返る。
校舎の向こう、帳の境界を目指した。



「お前の相手は……俺だ」



背後で伏黒くんの声が、廃校に響いた。
玉犬が飛びかかり、呪霊へと襲いかかる。


駆け出す足が、床を蹴る。
乱れた息とともに、鼓動が耳の奥で鳴り響く。


(早く、応援を呼んで。伏黒くんを助けなきゃ……)


そう思った矢先だった。
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