第14章 「その花は、誰のために咲く」
◇ ◇ ◇
それは、数時間前のこと。
伊地知さんはいつも通り、タブレットを手にしながら、落ち着いた声で話していた。
「今回の任務は、“旧・〇〇市立第三中学校”の廃校での呪霊討伐です」
わたしと伏黒くんは、伊地知さんの前に並んで、無言で頷く。
「廃校となったのは三年前。当時、校内での事故や自殺が相次いだこともあり、現在ではいわゆる“心霊スポット”として扱われています。
つい先日、深夜に肝試しへ訪れた大学生四名が、校舎内で行方不明になりました」
伊地知さんの視線が、一瞬だけタブレットから外れてわたしたちを見る。
「警察による捜索では何の痕跡も見つからず、高専に調査依頼が届きました。窓が確認したところ、呪霊の等級は“二級”と見られますが、念のため複数人での対応となります」
そこまで聞いたところで、わたしはそっと口を開いた。
「……あの、私が任務に行くときって、基本的には五条先生がついてくることになってるはずなんですけど……今回、先生は?」
わたしの問いに伊地知さんは一瞬だけ目を細めたあと、静かに答えた。
「……基本的には、伏黒くんが前線で。さんはサポートに回ってください。
五条さんも、今回は任務内容も難しいものではないし、伏黒くんもいるので問題ないと言っています」
「……そう、ですか」
その言葉に、わたしはほんの少しだけ緊張を和らげた。
二級なら、伏黒くんがいれば問題ないはず――
「何かあればすぐ連絡を。状況に応じて五条さんにも連絡が行きます」
「了解です」
伏黒くんは短く応じ、わたしもそれに倣って頷いた。
◇ ◇ ◇
そんなやり取りを思い出しながら、わたしは伏黒くんの背中を追いかける。
「大丈夫かって聞いたのは、任務のことじゃなくて……」
その言葉に、足がふと止まる。