第14章 「その花は、誰のために咲く」
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廃校の廊下に、足音がふたつ。
ぎし、と鳴る床板の音に、小さく肩が揺れる。
(……やっぱり、こういう場所、苦手)
わたしはそう思いながら、足元に気を配りつつ、伏黒くんの少し後ろを歩く。
彼の背中はいつも通り落ち着いていて、無駄な動きひとつない。
黒板には、誰かが残した落書き。
床には古びたプリントや紙片が散らばって、どこか時間の止まった空気が漂っていた。
ほこりっぽい空気が、重く、肌にまとわりつく。
割れた窓から入り込んだ風が、薄汚れたカーテンを揺らしている。
その影がふいに、人のように見えて――
思わず、伏黒くんとの距離を詰めてしまった。
「……大丈夫か?」
振り返った彼が、低くそう言った。
「だ、大丈夫だよ」
とっさに答える声が、少しだけ裏返る。
「こういう場所も、だいぶ慣れてきたっていうか……」
無理して強がったのが自分でもわかった。
伏黒くんはじっとわたしの顔を見ていたけど、
何も言わず、すっと前を向いた。
「そういえば、。
前回の心霊スポットでの任務で、夜中にトイレ行けなくなったって」
「――っ! ……な、なんで、それ……知ってるの……?」
思わず声が大きくなる。
「釘崎が言ってた」
(……野薔薇ちゃん、また余計なこと言って……!)
伏黒くんはちらりとこちらを見ただけで、すぐ前を向いた。
その横顔が、気のせいか――
ちょっとだけ、笑ってるように見えた。
高専に入ってから、伏黒くんと任務に行くのは何度目だろう。
虎杖くんや野薔薇ちゃんに比べると寡黙だけど、
いつも冷静で、頼りになる。
その背中を見ながら、わたしは――
今回の任務内容を、頭の中でなぞっていた。