第14章 「その花は、誰のために咲く」
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ひとしきり泣いたあと、ようやく呼吸が落ち着いてきた頃だった。
ふと、目の前の空気がわずかにきらめいた気がした。
涙の膜の向こう、白い光がゆらり、ゆらりと空中を漂っている。
風もないのに、花びらのように舞いながら――
どこからともなく、静かに集まってくる。
光の粒は、わたしのまわりにふわりと浮かんで、
やがてそっと、胸の奥に、溶けるように消えていった。
(……これは……)
見覚えがあった。
――あの夢で見た、白い光。
「……花冠?」
あの、優しくて、温かくて、
でも、どこか悲しみを抱えたような光。
(……そういえば、あの和歌に……)
ふと、口をついて出るように、呟いていた。
『――はな かむり
たまのをに ゆらぎしこゑよ
よるの しづくに うつしゑを
すくふは そよぐ まがれなる……』
(……“よるの しづくに うつしゑを”……)
それって、今わたしに起きてることなんじゃないかな。
夜の雫。
たしか、先生が言ってた。
「涙とか、悲しみのこと」って。
その雫の中に、映し出された“うつしゑ”――
それは、わたしじゃない誰かの記憶。
願いでも、声でもない。
ただ、そこにある……悲しみ。