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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第14章 「その花は、誰のために咲く」


「……?」

 

呼ばれた声に、意識が現実へと戻る。
目の前には、心配そうに覗き込む先生の顔があった。


でも、目を合わせられなかった。


さっきの先生の顔が、脳裏にこびりついて離れない。


あんな目、初めて見た。
誰にも見せたことのない、痛みの奥。
触れてはいけない。
けれど――触れてしまった。



 
「――やっぱ、熱あるかも。硝子に診てもらおうか」

「僕、付き添うよ」

 

そう言って、先生の手がわたしの手にそっと伸びてくる。


(……だめ)


その手が触れる直前で、わたしは反射的に立ち上がっていた。



「……大丈夫です。一人で行けますから」



先生の手が、わずかに空を切る。
それを見ていられなくて、
わたしは一礼だけして教室を飛び出した。
 


「――!」



背後から先生の声が追ってくる。
でも、振り向けなかった。


先生の顔を、もう一度見たら――泣いてしまうから。


わたしは走った。


廊下を抜け、階段を駆け下り、
誰もいない中庭の奥、木陰のベンチまで。


誰にも見つからない場所で、ようやく足を止めた。


心臓が、暴れるように打っている。
息がうまく吸えない。


(……先生と、あの人……)

(あんなに仲良さそうだったのに――)

(二人とも、どうして……)

(どうして、あんなにも……苦しそうで、孤独で、悲しそうなの)


胸の奥に、先生の哀しみが流れ込んでくる。
あの蒼の奥に隠されていたものが、今になって重くのしかかる。


知らなければよかったなんて、思いたくない。
でも、どうしようもなく苦しくて。


先生の痛みと、わたしの痛みが、
ごちゃまぜになって、どこが自分かわからなくなっていく。


(あの人を――殺せなかった先生。あの蒼い目に宿った迷い……)



知ってしまったくせに、何もできない。
何を言えばいいのかさえも、わからない。


(……わたしになにができるの……?)


見てしまったくせに、何一つ救えない。
ただ、泣くことしかできない。


涙が頬を伝って、制服の襟元を濡らす。
拭っても、拭っても、あとからあとからこぼれてきて。
唇を噛んで、声を殺して泣いた。


せめて――






私の涙の数だけ、先生の痛みがなくなったらいいのに。
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