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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第14章 「その花は、誰のために咲く」


***


あの日から。

 
ふと気づくと、誰かの“記憶”が、
“心”が流れ込んでいる。


触れただけで――


また、誰かが入ってくる。







電車の中、隣の人の肩が私に触れた。


耳をつんざく金属音。
ガラスが砕け散る感覚が頭を貫いた。
生臭い血の匂いが、鼻を刺す。

 
(――事故……?)


こみ上げる吐き気に、思わず口を押さえた。



「……また……」





お釣りを受け取るとき、店員の手が触れた。


香の匂い。
幼さの残る女の子の遺影。
嗚咽と、静かな泣き声。



「……また、だ……」





肩がぶつかっただけで。
指先が触れただけで。

 
他人の哀しみや痛みが、どんどん、流れ込んでくる。

 

誰にも聞こえない声で、呟いた。



「また…なの…?」



目の奥が、いつも痛い。
呼吸が、浅くなる。


どこまでが自分の記憶で、
どこからが他人の記憶なのか、
だんだん境目がわからなくなっていく。


(やめて……もう、やめて)

(もう、見たくない……聞きたくない……感じたくない……)

(誰のものかもわからない痛みで、心が擦り切れてく……)

 

自分のままでいたいのに。
自分だけの心でいたいのに。
 

……なのに。


気づけば、また誰かが、
わたしの中に入り込んでくる。












「――ちょっと、?」





声が落ちてきた。
どこか遠く、水の底から響いてくるような――

 

「……え……?」

 

ハッと息を吸い込むと、目の前の景色が一気に戻ってきた。


教室だった。
わたしは、席に座っていた。
机の上には教科書、開きっぱなしのノート。
いつもの高専の風景。

 

「……なんで泣いてんの?」

 

野薔薇ちゃんが、少し眉をひそめて覗き込んでくる。
その言葉に、ようやく自分の頬を指でなぞる。


……濡れていた。


気づけば、また、泣いていた。

 

「どうした? 体調悪い?」



横から虎杖くんの心配した声。
伏黒くんも、わずかに目を細めてこちらを見ていた。


(……わかんない。なんで泣いてたのか……)

 
うまく言葉が出てこない。
涙の理由もさっきまで何を見ていたのかも、うまく思い出せない。



そのとき――
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