第19章 「夢に還らぬひと」
熱い。苦しい。胸の奥が焼けるように痛む。
「おまえの中の、それ……ちょうだい」
少女の声が、かすれた喉から搾り出される。
「……おまえの力で、完全に……なれる」
首に、冷たい指が絡みついた。
「っ――ぐ……は……っ!」
細く、華奢なはずのその手が、あり得ないほどの力で締め上げてくる。
の視界が、じりじりと滲んだ。
(ダメ……このままじゃ……)
胸の奥が、引き裂かれるようだった。
魔導が、まるで別の存在に“引っ張られる”感覚――
それは、身体ではなく、魂そのものが抜き取られるような恐怖。
意識が朦朧とし、身体が重くなっていく。
呼吸は浅く、喉に詰まるような痛みと恐怖。
それでも――
(動け……! 逃げなきゃ……!)
どこかに、小太刀が――
の目が、部屋の隅に転がる呪具をかすかに捉えた。指先はまだ震えている。
それでも、必死に手を伸ばそうとした、そのとき――
「その手を離していただけますか」
静かで冷徹な声が、空間を切り裂いた。
そして同時に、鈍く重い音と共に、少女の身体が弾かれた。
「っ……七海さん!」
思わず声を上げたに、七海はちらりと横目を向けながら、淡々と口を開いた。
「虎杖くんといい……五条さんの生徒は、言うことを聞かない人が多いですね」
淡白な声色に皮肉をにじませつつも、その口調はどこか落ち着いていた。
「……説教は後で。さん、まずは――状況を説明……」
言い切るより先に、ズルリ、と濡れたような音が空間を走った。
少女の裂けた肩口――そこから、肉が、皮膚が、静かに、しかし確かに再生していく。
まるで逆巻くように盛り上がる肉の蠢きに、空気が一瞬凍りついた。
「……再生してる?」
の喉がひくりと鳴る。
七海も眉をひそめ、無言のまま鉈を構え直した。
少女は無表情のまま、じっと七海を見つめていた。