第13章 「咲いて、散って、また咲いて**」
「こんにちは」
背後から、不意に声がした。
驚いて振り返る。
そこに立っていたのは、一人の青年だった。
銀色の髪が風に揺れていた。
男の人だった。
年は……二十代、くらいに見える。
でも、その顔は――
(……きれい……女の人みたい)
思わず、そんな言葉が浮かぶくらい。
あまりに整っていて、まるで絵の中から抜け出したみたいだった。
肌は透けるほど白くて、目元はどこか涼しげで。
でも、不思議と冷たさは感じなかった。
「……こ、こんにちは」
慌てて声を返す。
するとその人は、やわらかく微笑んだ。
「ここで、何してるの? もしかして……迷子?」
問いかけられて、言葉に詰まる。
(五条家の人……かな?)
そう思った。
この敷地の広さを考えれば、
きっと親戚とか、身内の誰かだろう。
「えっと……散歩してて、そしたら……道が、わからなくなっちゃって……」
しどろもどろになりながら言い終えると、
その人はまた微笑んで――
今度は、私の横にある花を見つめた。
「……その花に、呼ばれたのかな」
まるで、それが当たり前のことみたいに言うから、思わず黙ってしまう。
(……呼ばれた、って……)
なんで、そんなこと知ってるの?
私がさっき、あの花に引き寄せられたことを。
わからない。
でも、聞けなかった。
その人が、静かに一歩だけ近づいてくる。
目の奥が、少しだけぞくっとした。
「あ、あの……っ」
「あなたは……どうして、ここに?」
本当はもっと聞きたいことがあったが、
なんとか言葉を絞り出す。
けれどその人は、わたしの問いに直接は答えず、
「僕はね、この奥に――会いたい人がいて」
そう言いながら、そのまま花の向こうを指さす。
そこには、木々がやわらかく影を落とす、細い獣道のような道が続いていた。
「……一緒に来る?……」
その人が、わたしの名前を口にした。
一瞬、時間が止まったような気がした。