第13章 「咲いて、散って、また咲いて**」
(……何か、あったのかな)
そう思っていると、先生がこちらに振り返った。
「……ごめん。ちょっと、家の用事できちゃってさ」
「すぐ戻るから、ちょっとだけ待っててくれる?」
先生の声は、どこか申し訳なさそうだった。
「……私のことは気にしないでください」
そう言ってから、少し微笑んで続ける。
「この辺り、少し散歩して待ってるので」
そう答えると、先生は少しだけ目を細めて笑った。
そっと私の頭に手を伸ばす。
大きな手のひらが、髪の上をやさしく撫でた。
「遠くまで行って迷子になっちゃダメだよ?」
「……なりませんよ、子どもじゃないんですから」
思わずむっとして言い返すと、先生はそれを見て、
くすりと笑った。
「じゃ、ちょっと行ってくるね」
小さく手を振って、先生は部屋を出ていった。
その背中が見えなくなるまで、わたしはしばらく扉の方を見つめていた。
そっと立ち上がり、スカートの裾を整える。
(……私も、外の空気を吸ってこよう)
心のなかでそう呟いて、荷物の横にあるスマホに手を伸ばした。