第13章 「咲いて、散って、また咲いて**」
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朝食を終えたあとは、再び部屋に戻って、
帰り支度を整えることにした。
私は荷物をまとめながら、襟元を整えたり、
髪を結い直したりしていた。
ふと、鏡に映った自分を見る。
頬が、ほんのり赤い。
昨夜のことも、朝のことも、全部、夢じゃないんだと実感する。
「ー、荷物まとまった?」
先生の声に、わたしは「はい」と振り返った、
ちょうどそのとき――
「――悟様。少し、よろしいですか」
控えめなノック音とともに、榊原さんが部屋の襖をそっと開けた。
「ん、何?」
先生が振り向いて、声のトーンを少しだけ変える。
榊原さんは数歩だけ進み出て、先生の耳元に口を寄せる。
小声で、何かを告げる。
(……?)
わたしは何の話か分からず、ただその様子を見守っていた。
「……えー、マジで?」
先生が、あからさまに眉をひそめた。
まるで子供みたいに、心底イヤそうな顔。
「……この後、と嵐山行こうと思ってたのに……」
文句をこぼしながら、頭をぽりぽりと掻く。
その態度に、榊原さんが申し訳なさそうに口を開いた。
「申し訳ありません。来客中とお伝えしたのですが……」
先生は深いため息をついたあと、少し肩を落としてから、ぽつりと呟いた。
「……まあ、榊原さんのせいじゃないでしょ」
榊原さんは静かに頭を下げ、襖の向こうへと姿を消す。