第13章 「咲いて、散って、また咲いて**」
「……ふ、ぁ……っ、んん……」
喉の奥から漏れた甘い声に、自分自身が驚く。
「ほら、その声。好きなんだよね、僕」
意地悪く囁かれ、顔がますます熱くなる。
「先生っ……!」
必死に押し返そうとした、そのとき――
「悟様、おはようございます」
廊下の向こうから、榊原さんの落ち着いた声が響く。
(……っ!!)
顔の熱が一気に引いていく。
「朝食のご用意ができております。お支度が整いましたら、広間へどうぞ」
「……はーい、すぐ行くよ」
気だるげな返事をしながら、先生は布団からゆっくりと身を起こす。
わたしは固まったまま、視線も動かせない。
そんな様子を面白がるように、
先生はくすりと笑って言った。
「さっきの……聞こえちゃったかもね」
「……っ、わ、私……もう榊原さんの顔、見れないです……っ」
思わず枕に顔を埋めた。
「はは、が大きい声出すから」
「先生のせいでしょっ!!」
即座に言い返して顔を上げると――
先生が、ちょうど浴衣の帯をゆるく結び直しているところだった。
襟元は乱れたままで、
昨夜の名残を思わせるように、胸元がわずかに覗いていた。
起き抜けなのに、
なぜか妙に、艶がある。
(……無駄にかっこいいんだから…)
心のなかで、そう呟いてしまった。
あんなにからかってくるのに、
こんなふうに色っぽいのは、ずるい。
先生は帯を結び終えると、
ちらりとこちらに視線をよこす。
「ほら、。行こっか」
そう言って、手を差し出してくる。
朝の光を受けたその指先が、まぶしく見えた。
柔らかくて、頼りがいがあって、何よりも、ずるいくらいに優しい。
わたしは、そっとその手に自分の手を重ねた。
指先に触れた瞬間、
先生の手がきゅっと、少しだけ強く握り返してくる。
(……あ……)
心臓の音が、また早くなっていくのがわかった。
先生の手に引かれながら、わたしはそっと立ち上がる。
まだほんのりと温もりの残る布団の上で、
ふたりの影が重なる。
そして、朝の光が満ちる部屋をあとにし、
先生と並んで歩き出した。