第13章 「咲いて、散って、また咲いて**」
(そろそろ起きなきゃ……)
そう思い、ゆっくりと手を動かそうとすると、
腰に回された先生の腕がぴくりと反応する。
指先が、まるで夢の中で何かを求めるように、
わたしの身体をきゅっと引き寄せてきた。
驚いて顔を上げる。
(……起こしちゃったかな?)
でも、先生の瞼は、静かに閉じられたままだった。
静かな寝息に、少しだけ安心して。
もう一度先生の寝顔をそっと見つめた。
あんなに激しく抱きしめてきた人とは思えないほど、静かな顔。
(……ずるい)
こんな顔、見てしまったら。
もう少しだけ、このままでいたくなる。
わたしはそっと身体を寄せた。
先生の体温を感じながら、もう一度だけ目を閉じる。
――そのときだった。
まぶたの裏に、ひとつの光景が流れ込んできた。
どこかの屋上。
陽の光がまぶしい午後の空。
高専の制服を着た二人の青年が、
鉄柵にもたれて並んでいた。
一人はサングラスをかけていて、
もう一人は、前髪が特徴的で、
長い髪を後ろで束ねている。
吹き抜ける風に、シャツの裾が揺れる。
サングラスの奥から、わずかに見えた蒼の気配。
(……先生……?)
見覚えのある横顔に、心臓が跳ねた。
でも、どこか違う。
いつも見ている先生よりも、ほんの少しだけ幼くて――
そして、となりにいたもう一人
(……誰……?)
胸の奥が、妙にざわつく。
(……さっきのは……いったい……)
思いを巡らせていると――
「……ん」
すぐ近くで、先生のまつげがわずかに動き
ゆっくりと目を開けた。
「……おはよ」
いつもより、ほんの少しだけ掠れていた。
滅多に聞けない――寝起きの、甘く低い声。
「……おはよう……ございます」
少し遅れて、そっと返す。
自分でもわかるくらい、声の端が照れてにじんでいた。
「……朝起きて、目の前にいるとか――やば」
ぽつりと、先生が呟く。
それは冗談のようでいて、本気みたいな声音だった。
先生はゆっくりと、さらに抱き寄せてきた。
「……もう起きてたの?」
先生が、まだ眠たげな声で尋ねる。
「わ、私も……今起きたとこですよ」
そう言いながらも、鼓動はどこか落ち着かなくて。