第13章 「咲いて、散って、また咲いて**」
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微かなぬくもりに頬を撫でられて、そっと目を開けた――。
瞳の奥に差し込んできたのは、柔らかな朝の光だった。
カーテンの隙間からこぼれる金色の陽が、白い布団の縁をやさしく照らしている。
(……朝……?)
ぼんやりとした意識のなかで、身体のあたたかさに気づく。
先生の腕が、わたしの腰にまわされている。
そして目の前には、先生の寝顔があった。
頬と頬が触れそうなほどの距離。
(……近すぎる)
動いたら、起こしてしまいそうで――
しばらくのあいだ、わたしは息をひそめたまま動けなかった。
だけど、こんなに近くで見つめることなんて、
そうそう許されることじゃない。
(……先生、寝てるときはこんな顔、するんだ……)
長い睫毛が落とす、やわらかな影。
初めて見る、ほんの少しだけ無防備な顔。
ふと、昨夜の記憶が、微熱みたいに
身体の奥から滲み出してくる。
指先の感触、くちづけの温度――
全部がまだ、どこかに残ってる気がして。
自分でも触ったことのない場所に、
先生の指先が触れて――
自分じゃないみたいな声が漏れて。
(……っ)
思い出した瞬間、胸の奥が一気に熱くなる。
……でも、何よりも忘れられないのは――
あのときの、先生の目。
わたしを真っ直ぐに見つめて、
どこまでも深く、貪るように絡んできた。
あの瞳に宿っていたのは、
いつもの優しさなんかじゃなかった。
焼けつくほどの熱。
剥き出しの衝動。
もっと深くへ連れていこうとするような。
(……わたし、あの時――)
怖さと一緒に、
抗えない気持ちが確かにあった。
自分が、先生のものになっていくようで――
……それが、嬉しかった。
そこまで考えて、思わず顔を手で覆いたくなる。
頬が、じんわりと熱い。
(……なに考えてるの、朝から……っ)
鼓動の速さが、なかなか戻らない。
柔らかい布団と、隣にいる先生の体温。
あたたかさに包まれているのに、
どこか、落ち着かない。
気を紛らわすように、そっと息を吐いて。