第13章 「咲いて、散って、また咲いて**」
(……僕のもの、なんだって)
当たり前みたいに抱いていたその感情が、
輪郭を持って、はっきりと形になった。
ただ可愛いとか、大事にしたいとか、
そんな言葉だけじゃ足りない。
(……やばいな、ほんとに)
こんな感情、知らなかった。
たった一人の女の子に、
ここまで本気になる自分がいるなんて。
の手を、そっと自分の頬に持ってくる。
(……わかる? 僕、まだ全然我慢してんの)
寝てるのに、こんなに愛おしい。
隙あらば奪ってしまいたいのに、ちゃんと待とうと思ってる。
“そういう男”になったのは、
きっと、に出会ったせいだ。
そっと、腕の力を強める。
胸元にぴたりと寄り添うの体温が、
心の奥まで沁みてくる。
(……でも、次は……もう、待てないよ)
限界ぎりぎりで飲み込んだ衝動が、まだ胸の奥で燻ってる。
額に唇を寄せて、そっとキスを落とした。
「……おやすみ、」
少しでも長く、触れていたくて。
少しでも近くで、守っていたくて。
抱きしめたまま、僕もゆっくりと目を閉じた。
やがて――
静けさが、部屋の空気を包みこむように満ちていく。
虫の声も、夜のざわめきも、遠い彼方へと溶けていった。
ただ、窓の外に残るのは、夜明け前のやわらかな闇。
その穏やかさのなかで――
ふと、空気がわずかに揺れる。
「……す……わ……れつ……」
それは、眠る少女の唇からこぼれた、かすかな囁き。
けれどその音だけが、妙にくっきりと、夜気に溶け込んでいった。
まぶたは閉じたまま。
頬にかかる髪が、呼吸に合わせてふるえている。
彼女はまだ夢の中にいる。
けれど、その胸の奥、魂のいちばん深いところで。
何かが、そっと目を覚ましかけていた。
それは、遠く、深く――
決して触れてはならない、封じられた場所。
花が咲くはずの場所ではない。
あたたかな光も、祝福も、届かない。
そこは、“蠢き”が息づく場所――
その底から這い上がるように。