第12章 「極蓮の魔女」
バッグの中をごそごそと探り、スマホを取り出す。
画面を点けて、すぐに検索画面を開いた。
【初めて お泊まり 夜 どうする】
一瞬ためらうも、もう後には引けなかった。
けれど、表示された検索結果を見て――
“まずは落ち着いて話そう”
(……そ、それができたら苦労しないんですけど……)
”お泊まりは特別な夜。少し大胆でもOK”
(……い、いきなり!? だ、大胆って……な、何するの!?)
画面をスクロールする指が、だんだん震えてきた。
調べれば調べるほど、余計に混乱していくばかりだった。
画面をそっと伏せながら、顔を真っ赤にした。
(む、無理っ……私にはハードルが高すぎる……!)
頭を抱えかけた、そのとき――
廊下を歩く足音が聞こえてきた。
(――っ!!)
ぴたり、と動きが止まる。
心臓が跳ね上がる音が、耳の奥で反響する。
(先生、戻ってきた!?)
慌ててスマホを枕の下に滑り込ませる。
(ま、まずい、見られたら恥ずかしくて死ぬ……っ!!)
布団の上で正座しなおすと、なぜか背筋までしゃんと伸びてしまった。
(お、落ち着いて……いつも通りに……っ)
扉の向こう、足音が止まる気配がした。
そして、扉が開く音がした。
(ひゃああ……っ!)
反射的に顔を上げたその先には――
濡れた髪をタオルで拭いながら、片手には冷えたお茶のペットボトルを持った先生が立っていた。
淡い藍色の浴衣を、さらりと身にまとって。
襟元からのぞく鎖骨がやけに色っぽく見えて、目のやり場に困る――。
「おまたせー。冷たいの、もらってきた」
その笑顔が、あまりにも“普通”すぎて――
さっきまでの自分の落ち着きのなさが、
余計に浮き彫りになってしまった気がした。
先生の視線が、わたしの正座姿に止まった。