第12章 「極蓮の魔女」
「……たとえば……力を使うことで……“何か”……災いが起こるとか……」
ほんの少し、先生の目が細くなる。
「……可能性はある。
“送る”って行為が、もし“死”と近いものだとしたら――
何か、取り返しのつかないことが起こるのかもしれない」
先生は、破れた部分をもう一度じっと見つめた後、ふっと顔をあげて口元をゆるめた。
「……ま、とりあえずこれ持ち帰って、伊地知に分析でも頼んでみるよ」
そう言って先生は、冊子をかかっていた布で丁寧に包む。
その手つきに、わたしはそっと視線を落とした。
(……花冠の魔導は、苦しんだ魂を“解放”する力)
(……でも、それだけじゃないのかもしれない)
(だから――悠蓮は、“魔女”と呼ばれたのかな)
やさしくて、あたたかくて。
けれど、何か“災いをもたらす”力でもあったのなら――
(……やっぱり……わたしの力は――)
つかみかけた答えは、すぐに霧のように指の隙間からすり抜けていく。
届きそうで、届かない。
「」
不意に呼ばれ、顔を上げた。
先生が少しだけ顔を寄せながら、目を細めて言った。
「……お腹、減ったでしょ。呪術師はまず、腹ごしらえだよ」
まるで、この沈んだ感情を持ち上げてくれるような
気軽で、でも確かに優しいその言葉に――
わたしは、不意に笑みをこぼしていた。
「……はい」
――答えはまだ遠いけど
それでも、この人の隣でなら
迷っても、揺らいでも、前に進める気がした。