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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第12章 「極蓮の魔女」


***


鴨川の水音が、さらさらと耳に心地よかった。


木の床に座布団が敷かれ、川面から吹き上がる風が、ほんの少しだけ肌をくすぐる。
視界の端には、ゆらゆらと灯る行灯の明かり。
向かいの席で、先生が湯葉のお造りを箸でつまんでいた。

 

「……ここ、予約1ヶ月待ちって聞きましたけど、よく取れましたね」



わたしがそう言うと、先生はにやりと笑う。



「できる男は段取りも完璧なんだよ」

「……どうせ伊地知さんを脅して取らせたんですよね」

「んー、この京都牛美味しいね」



わざと話題を逸らすように言って、口にした肉をじっくりと味わい始める。
頬が緩み、目元まで満足そうに綻んでいる。

 

その様子に、つい、くすっと笑ってしまった。


でも、こうして川の風に吹かれていると
不思議と心が落ち着いていくのがわかった。

 

「……先生」



湯気の立つ出汁巻きに箸を伸ばしながら、わたしは口を開いた。



「どうして、あの記録は封印してあったんでしょうか?」



先生は、箸を持ったまましばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと口を開く。

 

「結構手の込んだ封印だったよ。僕にとっては、RPGの開始5分で出てくる宝箱くらい簡単だったけどね」

「まぁ、でもあれは……外はもちろん、五条家の中の人間にさえ“触れさせたくなかった”ってこと」



その言葉に、思わず唇が乾く。
あの布の奥から感じた“重さ”は、気のせいじゃなかったんだ。

 

「……じゃあ……」



わたしは、一度呼吸を整える。



「先生は……当時の当主は、悠蓮の味方だったと思いますか?」

 

言った瞬間、風が少しだけ強く吹いた。
川面がさざめき、行灯の火がかすかに揺れる。

 

先生の目が、すっとわたしを見た。


 
「……どうだろうね」



静かな声だった。

 

「守ろうとしていたのか、それとも……排除しようとしていたのか」



先生はそう言って、箸を置いた。



「今の状況からは、どっちとも言えないね」



胸の奥で何かがざらりと軋むのを感じた。

遠い時代に追いやられた真実は、まだ誰かの手の中に――
それとも、闇の底に、ひっそりと沈んでいるのかもしれない。
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