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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第12章 「極蓮の魔女」


「……解けたよ」



そう告げた瞬間、布を包む力がふっと抜けた。


ゆっくりと布を外す。


現れたのは――
墨の色が褪せた、手のひらほどの冊子。


表紙には一文字、まるで刻むように書かれていた。



「……環」



先生は迷いなく表紙をめくり、最初の頁を開く。



「これは……」



裏表紙の内側に小さな筆文字があるのに気づいた。
細くかすれたその文には、こう記されていた。

 

『これは、“極蓮の妖女”にまつわる断章なり』



「……極蓮の……妖女……?」



呟いた声は、自分でも驚くほど小さかった。
けれど、すぐ隣で先生が静かに応じる。



「“妖女”は昔の言い方で、“魔女”ってこと」

「魔女……」



先生は、わたしの反応を確かめるように一瞬だけ視線を向け、
何も言わずに、ふたたび頁をめくる。



「……読みづらいけど……これは、和歌だな……」



そう言いながら、先生は崩れかけた草仮名に目を落とし、
一行ずつ、ゆっくりと読み上げ始めた――

 

『――はな かむり
 たまのをに ゆらぎしこゑよ
 よるの しづくに うつしゑを
 すくふは そよぐ まがれなる……』



読み上げられるたびに、言葉が胸に刺さった。
意味を正確に理解しているわけじゃない。


でも――
音のひとつひとつが、身体の奥を揺らす。




『――ひとのよに
 たましひを しるしぬものは
 ひかりにかへる わのまじなひ
 うまれしときより たまゆらの――』



先生の声は、穏やかで静かだった。
けれど、その言葉たちはあまりにも優しくて、あまりにも遠くて。
どうしようもなく、心の奥に触れてきた。


気づいたときには、もう涙が頬を伝っていた。


(……どうして……)


何に泣いているのか、自分でもわからなかった。
でも、止まらなかった。
目を閉じれば、遠い遠い記憶の奥で、同じ声が、同じ詩を歌っていたような――
そんな錯覚すらした。
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