第12章 「極蓮の魔女」
「……、大丈夫?」
先生の声に、肩が小さく震えた。
わたしは首を横に振る。
「……大丈夫、です……」
そう言った声も、涙で震えていた。
「……なんか、初めて聞いたのに……知ってる気がして……」
「君の中の悠蓮の記憶が、反応したのかもしれないね」
先生の言葉が、静かに書庫の空気に溶けていく。
私は涙でまだぼやけた視界のまま、先生のほうを見つめた。
「……どういう、意味なんですか……さっきの和歌は……」
やっとの思いで、声がこぼれる。
私の問いに、先生は静かに目を伏せる。
それから、言葉を選ぶように、ゆっくりと口を開いた。
「……ざっくり言うと、こんな意味だよ」
わたしは涙を拭いながら、静かに耳を傾けた。
「“はな かむり”は、花冠のことだろうね。
“たまのを ゆらぎしこゑ”は、直訳すると……魂と身体を繋ぐ“糸”が揺らいでいる」
「たぶん、何かに囚われてる――苦しんでる魂のことを言ってるんだ」
(……苦しんでる、魂……)
先生の言葉が、胸の奥で静かに波紋のように広がっていく。
誰かの痛みが、ふと重なるような感覚がして――
思わず指先が、ぎゅっと袖を掴んだ。
「“よるのしずく”は……和歌ではよく”涙”や”悲しみ”の隠語とされる。
その涙の中に浮かぶ“うつしゑ”は、その悲しみの記憶やビジョンのことだろう」
「最後の“ひかりにかへる”ってのは、魂を、あるべき場所に還す。これが、悠蓮の言っていた”送り出す”ということかもしれない。
“わのまじない”――つまり“花冠の儀式”を通してね」
わたしは、小さく息をのむ。
「……全部が全部、解読できたわけじゃないけど……
魔導は花冠を使って“苦しんでいる魂”を送る、解放するためのものだったってことじゃないかな」
わたしは、そっと視線を上げた。
先生の瞳は、包み込むような優しさでわたしを見ていた。