第12章 「極蓮の魔女」
外とはまるで違う、ひんやりとした静寂。
どこか神聖ですらあるこの空間に、自然と背筋が伸びた。
(……すごい、図書館みたい……いや、博物館?)
壁一面に並ぶ書架は、天井近くまで続いている。
重厚な冊子や巻物が、無造作なようでいて、どこか秩序立って積まれていた。
(全部、呪術に関する……?)
わたしの視線は思わず、その“知”の山々を辿っていた。
「闇雲に探してもキリがないから――」
「まずは古そうなものからあたっていこうか」
先生はそう言うと、迷いなく書架の一角――
重厚なガラスケースの前に足を止めた。
中に収められていたのは、布に包まれた一本の巻物。
時間の重みを帯びたその存在は、ただ置かれているだけで、静かな圧を放っていた。
「……これ、かな」
先生は鍵を使って慎重にガラス扉を開き、
中から巻物を取り出すと、そっと私の手元に差し出した。
受け取る指先は自然と緊張していた。
表紙の墨は、かすれて読めない。
けれど、そこに込められた気配だけは、確かに“本物”だった。
「直接、“魔導”や”悠蓮”って言葉は書かれてない可能性が高い」
先生は、少しだけ真面目な声で続ける。
「“花”とか“冠”とか……そういう言葉を中心に探してみよう」
わたしは、しっかりと頷いた。
「……はい」
巻物を両手に抱えながら、心の中で小さく息を整える。
隣では先生が、別の書架へと向かっている。
二人で手分けして、静かにこの“古の記憶”を紐解こうとしていた。
もう一度、手の中の巻物を見つめた。
かすかに指先へ伝わる、ざらついた和紙の感触。
千年という時を越えて、この場所に辿り着いた“言葉”が、わたしに何を告げようとしているのか――
(お願い……何か、手がかりを……)
わたしはそっと、巻物を広げ始めた。
古びた巻物は、読み進めるほどに難解だった。
漢字の字体は崩れ、意味を成さないほど滲んでいる箇所も多い。
加えて、文体は古語に近く、目で追ってもすぐに意味が掴めない。
(……これ、読めるかな……)
そんな不安が脳裏をよぎっても、めげずに一文字ずつ目を凝らした。
――“花”という文字が出てくるたびに、ページを繰る手が止まる。