第12章 「極蓮の魔女」
その手際に無駄はなく、ただし丁寧さだけは崩さない。
ひとつひとつの動作に、“五条家の執事”としての矜持がにじんでいた。
「失礼いたします」
榊原さんは荷物を抱えたまま、玄関奥の廊下に目線だけで合図を送る。
するとすぐに、奥の襖の向こうから、年若い女性が二人、静かに姿を現した。
揃いの控えめな制服に身を包み、無言のまま榊原さんの指示を受けて、荷物を受け取ると、決められた手順で奥へと運んでいく。
「それでは、ご案内いたします」
そう言うと、榊原さんは廊下を先導するように静かに歩き出した。
わたしたちは、そのあとに続く。
(……広い……)
歩くたびに、足元の木材がかすかに鳴る。
けれど、それさえも音を立てぬよう抑え込まれているかのような静けさだった。
廊下の左右には、絵画や古びた掛け軸が等間隔に飾られていて、
そのどれもが、ただの“装飾”ではないような迫力を放っていた。
息を詰めるようにして歩いていると、
自然と、周囲の空気ばかりが気になってきて――
わたしは無意識に、きょろきょろと周囲に視線を彷徨わせていた。
「……なに、なんか面白いものでもあった?」
先生が、隣からふっと笑うように囁いた。
「っ……い、いえっ! なんか、想像以上にすごすぎて……混乱してます」
顔が熱くなるのを誤魔化しながら、そう答えると、
先生はふいにわたしの頭に手を乗せてきた。
「すぐに慣れるよ」
くしゃ、と優しく髪を撫でる手のひらが、どこかくすぐったくて。
すると、榊原さんが静かに足を止めた。
「こちらでございます」
そう言って向き直った先――
廊下の突き当たりにあったのは、分厚い木の扉だった。
わたしの“力”に繋がる何かが、ここに残されているかもしれない。
そんな思いが胸を過ぎった、そのとき。
先生が、そっとわたしの手を取る。
そのまま、何の躊躇もなく、書庫の扉に手をかけた。
――ギィ……
静かな音を立てて、重たい扉が開いていく。
書庫の扉が開かれた瞬間――
ふわりと、古紙と乾いた木の香りが鼻先をかすめた。
足を踏み入れると、空気が一変する。