第1章 「邂逅 ― 目覚めの夜 ―」
──数日後、硝子は高専の会議室で報告を終える。
「呪力の残穢はゼロ。でも、確かに“術”を放った。しかも呪力とは異なる力」
「私の反転術式を拒んだの。……理屈が合わないわ」
夜蛾が眉をひそめ、冥冥は興味なさそうに目を伏せる。
「……異質ね」と、家入がぼそりと付け加える。「でも、“脅威”って感じはしなかった」
その時、ソファにもたれかかっていた五条悟が身を起こし、にやりと笑った。
「面白そうじゃん」
硝子がジト目を向ける。「真面目に聞いてた?」
「ちゃんと聞いてたよ。呪力じゃない力、呪力の残穢ゼロ、それでいて呪霊を祓った。 で、硝子の反転術式を拒絶。面白くないわけがない」
「だからって、遊び半分で近づくんじゃないわよ」
「わかってるって。……ただ、僕の“目”でも見ておきたいなってだけ。その子、高専に呼んでよ」
──その夜。
ヒトミは自室で制服のまま、机に伏せていた。
鏡を見れば、そこに映った自分の瞳が一瞬、淡い翠色に染まる。
「……“悠蓮(ゆうれん)”って、誰……?」
頬をそっとなでる夜風の中で、
その名だけが、胸の奥に引っかかったまま消えずに残った。
――すべての始まりは、あの夜だった。