第1章 「邂逅 ― 目覚めの夜 ―」
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しとしとと降り続く春の雨が、古びた校舎の窓を叩く。
その奥、明かりひとつだけが灯る会議室。
集められた数人の大人たちの間に、重苦しい沈黙が流れていた。
家入硝子は報告書を閉じ、深く息を吐いた。
「呪力の残穢はゼロ。だけど……“術”だった。呪力とは別の、変な力」
「で、私の反転術式も弾かれた。拒まれたって言ったほうが近いかな」
冥冥は爪を眺めながら、つまらなそうに目を伏せていた。
「……異質だね。ま、私は金にならないなら興味はないよ」
夜蛾は腕を組んだまま沈黙していたが、やがてちらりとソファに目をやる。
「――悟。お前はどう見る?」
足を投げ出していた五条悟が、ゆっくりと身を起こす。
にやりと口角を上げた。
「いいね、面白そうじゃん」
硝子がジト目を向ける。
「真面目に聞いてた?」
「ちゃんと聞いてたよ。呪力じゃない力、でも呪霊を祓った。で、硝子の反転術式を拒絶。面白くないわけがない」
「だからって、遊び半分で近づくんじゃないわよ」
五条はゆっくりと立ち上がり、窓の外の雨に視線を向ける。
「わかってるって。……硝子、その子高専に連れてきてよ。
放っといたら、どうせ上の連中に潰されるんだから。
こういう子を扱えるのは、この世で僕くらいでしょ」
そう言って、五条は口元だけで笑った。
雨音の中、その笑みは妙に軽く、そして不思議なほど頼もしく見えた。
その夜、運命は静かに動き出した。
五条悟と――二人を中心にして。