第1章 「邂逅 ― 目覚めの夜 ―」
――あの夜、私はきっと死ぬんだと思った。
春の風はまだ冷たくて、頬をひりつかせていく。
東北の震災で両親を亡くしたあと、
母方の祖母に引き取られ、都心から少し離れた街で暮らしている。
塾の帰り、もう慣れた道を歩いていた。
でも、その夜はなにかが違ってた。
人通りの少ない駅前の交差点――そこで、立ち止まる男の子を見つけた。
小さな背中が、信号の手前で震えている。
どうしたんだろ? 信号青なのに……
「だいじょうぶ……?」
声をかけると、男の子の目の前に影のようなものが見えた。
わたしが近づくと、その影の中の“何か”が、ゆっくりとこちらに首を向けたような――そんな気配。
(……え?)
金縛りになったように、一歩も動けない。
足に力が入らない。声も出ない。
見えないのに、わかる。
何かが、こっちを見てる。
この子だけじゃない。私も狙われてる。
(……逃げなきゃ。この子を連れて早く……!)
そう思っても、身体が恐怖でまったく動かない。
動いたら死ぬ、そんな気がした。
逃げられない。
声もでないから、助けも呼べない。
何もできないまま、ここで――
(……わたし、死ぬの?)
そう思っても、なぜか不思議と怖くはなかった。
ずっと心のどこかで、この日を待っていたのかも。
両親が亡くなったあの日から、ずっと置いてきぼりにされてきたみたいだった。
あのとき生き残った理由なんて、どこにもなくて。
――でも。
男の子が震えてた。
わたしの制服の袖をぎゅっと握って、こっちを見てた。
その目があまりにも似てて。
(……あのときの、私だ)
あの日、誰かが手を伸ばしてくれていたら、わたしも何かが変わっていたのかな。
私が見捨てたら、この子はどうなるの?
身体が動いたのは、意識するより先だった。
「――っ」
手が勝手に伸びていた。
子どもをかばうように前に出る。
その瞬間、空気が“軋む”音がした。
ひび割れるような音とともに、手のひらが熱を帯びる。
眩しいほどの光が、私の前に弾けた。
光は空気を押しのけ、ゆっくりと輪を描くように広がっていく。
閃光が弾け、迫りくる影は一瞬でかき消えた。
「なに……これ……?」
身体中の全部が熱い。
心臓がどくどくしてる。