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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第1章 「邂逅 ― 目覚めの夜 ―」


あの夜、私はきっと死ぬんだと思った。




春の風はまだ冷たくて、制服のスカートを揺らしながら、頬をひりつかせていく。
東北の震災で両親を亡くしたあと、
母方の祖母に引き取られ、この街で暮らしている。
もう慣れた道だった。
塾の帰り、家までの一本道。


でも――その夜は、なにかが違ってた。


人通りの少ない駅前の交差点――そこで、立ち止まる子どもを見つけた。
小さな背中が、信号の手前で震えている。



「だいじょうぶ……?」



声をかけた瞬間、風がぴたりと止んだ。
耳の奥がじん、として、世界の“音”が消えた気がした。
目に見えない“何か”が、ゆっくりとこちらに首を向けたような――そんな気配。


(……え?)


一歩も動けない。
足に力が入らない。呼吸が浅くなる。声も出ない。


見えないのに、わかる。
何かが、こっちを見てる。
この子だけじゃない。私も狙われてる。


(……逃げなきゃ。この子を連れて早く……!)


そう思っても、身体がまったく動かない。
あがく前に悟った。――これは、もう、無理だ。


逃げられない。
助けも呼べない。
何もできないまま、ここで――


(……終わるんだ)


なぜか、不思議と怖くはなかった。
涙も出なかった。


(……そっか。やっと会えるのかもしれない。)


両親が亡くなったあの日から、ずっと置いてきぼりにされてきたみたいだった。
生き残った理由なんて、どこにもなくて。


――でも。


子どもが震えてた。
わたしの制服の袖を、ぎゅっと握ってた。
こちらを見て、縋るように目を見開いてた。


(……あのときの、私だ)


あの日、誰かが手を伸ばしてくれていたら、何かが変わっていたのかな。
今、私が見捨てたら――この子はどうなるの?


身体が動いたのは、意識するより先だった。



「――っ」



手が勝手に伸びていた。
子どもをかばうように前に出る。


その瞬間、空気が“軋む”音がした。
ひび割れるような音とともに、手のひらが熱を帯びる。
眩しいほどの光が、私の前に弾けた。


光は空気を押しのけ、ゆっくりと輪を描くように広がっていく。
閃光が弾け、迫りくる影は一瞬でかき消えた。



「なに……これ……?」



声が震えた。
手も、心臓も、身体中の全部が熱い。
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