第11章 「魔女はまだ、花の名を知らない」
「……は?」
「……え、だから、今年の“初雪”はいつかなーって、ちょっと気になって……」
一瞬の沈黙のあと、
「まだ夏も始まってないのに?」
そう言って、先生は吹き出した。
堪えきれず肩を揺らして笑ってる。
「~~~っ、わ、笑わないでくださいっ!!」
私はうつむいて、ぷいっと顔をそらした。
だけど、耳まで真っ赤になってるのが自分でもわかる。
それなのに――
「……はほんと、可愛いね」
先生は笑いながら、
だけど目隠し越しでもわかるぐらい、
その目はまっすぐに私を見ていた。
「っ……」
頬の熱がさらに増した。
というか、もう顔だけじゃなく、
耳も首も全部がぽかぽかしてくる。
(な、なんなの、今の……ずるい……!)
目を合わせられなくて、俯いたまま、必死に別の話題を探す。
「……そ、そういえば……」
なんでもないふうを装って、そっと口を開いた。
「昨日、夢を見たんです」
先生が、ん? と首をかしげる気配がする。
「夢?」
私はこくんと小さくうなずいた。
「なんか……妙にリアルで。悠蓮が出てきて――」
そう言った瞬間、先生の雰囲気が少し変わった気がした。
私はゆっくりと、夢の内容を思い出しながら続ける。
「……白い花が、頭の上に降りてきて……冠みたいな、光の輪になって……」
胸のあたりに手を置いて、言葉を探す。
「悠蓮はそれを、“送り出すもの”だって言ってました。
あとは……“おまえの心に従え”って……」
言葉にしながらも、自分でもよくわからない。
だけど、そのときの感覚は――
今もまだ、胸の奥に残ってる。
先生は黙っていた。
けれど、ただ黙っているわけじゃない。
聞いたことを、ちゃんと咀嚼して、考えているような。
そんな沈黙だった。
「……送り出す、ねぇ」
そう言いながら、地面の小石をひとつ、手に取る。
ひょいと軽く空中に投げ――
その瞬間、それが消えた。
「……!?」
思わず、目を見開く。
「送るって、たとえば“物をどこかに移動させる”みたいな、
そういう類いだったりするのかなって」
先生はひとつ肩をすくめるような仕草をして、続けた。