第11章 「魔女はまだ、花の名を知らない」
「でも、僕が今やったような“消す”のでも、“飛ばす”とは違う」
「そうじゃなきゃ、“送り出す”って言葉は使わない気がするね」
「“送り出す”……」
先生の言葉を、私は反芻する。
(……送り出すってことは、私が“いる場所”から、“どこか”へってこと……?)
『おまえの心に従え』
夢の中で悠蓮はそう言っていた。
(……ってことは……)
(……使う人の気持ち次第ってこと?)
わたしの心が、何かを“送りたい”って思えば、
その気持ちが、そのまま力になる……?
考えれば考えるほど、答えは遠くなる気がした。
まるで霧の中を歩いてるみたいに。
「……まだ……はっきりとは、わからないけど」
私は素直に、そう口にした。
「あれはきっと、“過去の記憶”とかじゃなくて……
悠蓮は私に何かを、託そうとしてた気がするんです」
「うん」
それは答えを急がせない、優しい肯定だった。
「答えなんて、今わかんなくてもいいよ。
の“心”に従えって言われたんだろ?」
私は、こくんと頷いた。
「じゃあ、今はそれで十分じゃない?」
先生の声は、まるで太陽の下にいるみたいに、あたたかかった。
「心が導く先に、“送り出すもの”がきっと見えてくるよ」
(……心が導く先に……)
その言葉を、胸の内でゆっくり繰り返していたときだった。
ふいに、そっと手を包まれる感触。
「……先生……?」
驚いて顔を上げると、
先生は私の手を握ったまま、視線をそらしていた。
ほんの少しだけ、不機嫌そうに。
「……なんかさ」
ぽつりと落ちたその声は、
どこか拗ねたようにも聞こえた。
「……むかつく」
「え……?」
言葉の意味がわからなくて、
つい聞き返す。
すると先生は、手を握ったまま、もう片方の人差し指で、
そっと、私の額をついた。
「だってさ」
目隠し越しでも伝わるような、まっすぐな眼差し。
「今のの頭ん中、悠蓮でいっぱいでしょ」
「……僕と一緒にいるときくらい、僕のことだけ考えててよ」
心臓が、一気に跳ね上がった。
言葉が追いつかない。
どうしていいかもわからなくて、
ただ顔が、どんどん熱くなっていくのがわかった。