第11章 「魔女はまだ、花の名を知らない」
その仕草で、先生はすべてを察したのかもしれない。
何も言わずに、ふわりと私の頭を抱き寄せてくれた。
「……大丈夫」
そう言って、先生はそっと私から身体を離した。
まるで、何でもなかったかのように。
そのあと、話題を変えるように冗談を言って、いつもの調子に戻った。
でも、どこか――
少しだけ、距離ができたような気がして。
私のせいだ。
私が拒んだみたいになって、先生を困らせちゃったのかもしれない。
(……先生、呆れちゃったかな)
あの夜のことを思い出すたび、
胸が苦しくなる。
先生に触れられるのは、好き。
大きくて、あたたかくて。
どんな不安も、包み込んでくれるような感じがして。
その手が頬に触れるだけで、ほっとする。
でも――
キスするだけで、まだ、精一杯で。
それ以上のことになると、
どうしていいのか、わかんない
触れてほしい気持ちも、
ちゃんとあるのに。
(……もっと、近づきたいのに)
それなのに、
心も、身体も、うまくついていかない。
(……慣れなきゃ、だめだよね……)
体に触れられるくらい、
普通に受け止められるくらいに――
(じゃないと、先生の“彼女”なんて、務まんないでしょ……)
わかってるのに。
どうしても、ひとつ先に進むのが怖い自分がいる。
(……私の、バカ……!)
両手で顔を覆って、ぐしゃぐしゃになった頭の中を、
どうにか落ち着かせたくて。
でも、落ち着くどころか、
さっきから変なことばっかり考えてる。
(……ていうか、“彼女”って……なに?)
誰も教えてくれない。
雑誌とか、漫画とか、ネットとか――
……あ、ネット……?
私は、そっとポケットに手を伸ばす。
スマホを取り出して、画面に指を置いた。
(……検索、すれば……いいんじゃ……)
小さく息を飲んで、検索バーを開く。
(え、でも、なんて調べるの……)
文字を打とうとした指が止まる。
何度も迷って――ようやく、ひとつの言葉を思いついた。
(……“初”……えっち……とか……)
おそるおそる、画面に「はつ」の文字をタップしようとした
――そのとき。