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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第11章 「魔女はまだ、花の名を知らない」


ただ、花弁が一枚、ふわりと頬に触れた瞬間――


(……冷たい……)


熱くも、痛くもない。
なのに、その一触れが、胸の奥に何かを刺した。


そして――涙が、ひとしずく、こぼれた。


(……え、どうして……?)


自分でもわからなかった。
悲しいわけでも、苦しいわけでもないのに。
なのに、涙が止まらなかった。


背後から、悠蓮の両腕が私の身体を包んだ。
驚いて振り返ろうとしたけれど、それよりも早く、声が降ってくる。

 

「おまえの心は知っている。あとは……従えばいい」

 

耳元で、静かに、はっきりと。
声は温かく、でも逃げ場がなかった。


私は目を閉じた。
まぶたの裏に、光の輪が揺れる。


最後の一枚の花が、ふわりと空へ舞っていくのが、見えた気がした。















「……っ!」



息を呑んで、目を開けた。


天井が見える。
薄暗い自分の部屋。まだ夜の気配が残っている。


夢だと、わかってる。
だけど――
 

頬が濡れていた。
指先で触れると、冷たい雫がもう一滴、こぼれ落ちた。


ゆっくりと上半身を起こす。


(……悠蓮……)


背中に感じた腕の感触。
耳元で囁かれた、あの静かな声。



――おまえの心は知っている。あとは……従えばいい



まるで、まだ近くにいるみたいに、頭の中で繰り返される。


ふと、風がそよいだ気がして、鼻をくすぐる香りに気づいた。


(……花の匂い?)


思わず、息を止めた。
窓は閉まっている。
花なんて、部屋にはないはずなのに。


けれど――確かに感じた。花の気配も、光の輪も、悠蓮の声も。
そして、流した涙も。


すべてが、今も静かに、
私の内側で根を張っている気がした。


……何を選ぶのかも、どうすればいいのかも、わからない。


それでも。
胸の奥で、あの白い花がそっと芽吹いたような感覚だけは――
もう、気づかないふりなんて、できなかった。
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