第10章 「花は焔に、焔は星に」
「ま、ま、まって……せ、先生、こ、ここ屋上……ですっ……!」
視線が泳ぐ。
心臓がうるさいくらいに暴れていた。
「だ、だめです……誰かに見られたら……っ!」
慌ててあたりを見渡しながら、声が裏返る。
けれど、五条はと言えば――
「えー、いいじゃん。誰かに見られて困ることでもあんの?」
「っ……あ、ありますよねっ!!」
目の前であっけらかんと笑う五条に、は必死に抗議する。
が、彼はどこ吹く風だった。
「いーのいーの。むしろ見せつけてやればよくない?」
「は……!? な、なに言ってるんですかっ!」
「だってさぁ?」
五条はの耳元に口を寄せ、わざと囁くように言った。
「が僕のものって。……みんなに知らしめたい」
「~~~~っっっ!!!」
真っ赤な顔でがのけぞろうとしたその瞬間、
彼の腕がするりと腰にまわって、逃がさないように引き寄せられた。
「……大丈夫。見られても、僕が全部なんとかするから」
「そ、そういう問題じゃ……っ!」
が声を上ずらせた、その瞬間――
「……」
急に、低く、静かな声で名を呼ばれた。
それだけで、心臓が跳ねる。
ふざけていた空気が、嘘みたいに一変した。
が顔を上げると、
五条は、もう笑っていなかった。
ただまっすぐに、彼女の瞳を見つめていた。
「……な、なんですか……」
小さく問いかけるに、五条はそっと囁く。
「好き」
「…………っ!」
再び真っ赤になって言葉を失うを見つめながら、
五条はそっと顔を近づけた。
そして――
もう一度、ゆっくりと唇を重ねる。
ひとすじの流れ星が、静かに瞬いて消えた。
夜風が、草木を揺らす。
そして月は、何も語らずにふたりを照らしていた。
ふたりの影が、重なったまま、静かに夜へ溶けていく。
その夜、星空は、
まるで二人を祝福するかのように――
ひときわ優しく、優しく瞬いていた。