第10章 「花は焔に、焔は星に」
「」
呼ぶ声は、ひどく優しくて。
そして、決定的に真剣だった。
「僕も、が好き」
言いながら、片手がの頬を包み込む。
泣きはらしたその瞳を、まっすぐに見つめてくる。
「生徒なんて――とっくに思ってない」
その一言に、胸が締めつけられる。
「もう、ずっと前からさ。教師とか、大人とか、そういうの全部置いといて……」
ほんの一瞬、言葉が途切れる。
けれどすぐに、五条の声は迷いなく続いた。
「が好きで、たまらない」
それは、いつもの冗談めいた口ぶりでもなく、
甘さだけを押しつける告白でもなかった。
ただ、ありのままの言葉だった。
嘘も飾りもない――本物の想い。
の胸の奥に、何かが静かに崩れ落ちていく。
張りつめていた痛みが、そっと溶けていく音がした。
「……ほんとに……?」
震える声で問いかけるに、五条はやわらかく笑った。
「好きじゃなきゃ、キスしないよ……」
その言葉を聞いた瞬間、の目に、再び涙があふれた。
五条は、その頬に流れたしずくを指先でそっと拭った。
「……僕たち、“好きな人同士”だよね?」
問いかける声は、いつになく真摯だった。
そして、言葉の最後に、少しだけ照れくさそうに続ける。
「……だからさ。キス――しても、いいよね?」
の頬が、見る間に赤く染まっていく。
唇はかすかに開いたまま、言葉にならない。
視線を落とし、指先をぎゅっと握りしめる。
それでも、逃げるような素振りは見せなかった。
ほんの数秒、息をのむ静寂。
そして、は小さく、こくんと頷いた。
その仕草に、五条の胸の奥が、そっと熱を帯びていく。
五条はそっとの頬に手を添え、その瞳をまっすぐに覗き込む。
震えていた瞳は、彼の熱に触れて、少しずつ潤みを宿していく。
「……」
名前を呼ぶ声は、かすかに掠れていた。
それが、どれほど本気かを物語っていた。
そして――
五条の唇が、の唇に、触れた。