第10章 「花は焔に、焔は星に」
「……つかなかったです」
かすれた声が、風にまぎれて消えそうになる。
「たぶん……死ぬまで、つかない……」
唇を噛みしめても、涙がこぼれるのを止められなかった。
夜風が髪を揺らして、月が静かに見下ろしていた。
その中で、はゆっくりと五条の方を見上げる。
「せんせい……」
声が震える。
息をするだけで、胸がぎゅっと締めつけられた。
「……わたし……」
唇が、うまく動かない。
でも、言わなきゃ。言いたい。
言いたくて、どうしようもない。
「先生が、好きです……」
こぼれた言葉は、涙と一緒に喉の奥からあふれ出た。
「……好きで、好きで……っ」
指先が震える。肩が揺れる。
心が、張り裂けそうだった。
「どうしても……消えてくれなくて……!
なかったことになんて、できなくて……っ」
声が途切れる。
けれど、想いは止まらなかった。
「先生のことが……好き」
その言葉は、夜空に静かに溶けていった。
の肩が、細かく震えていた。
「……ごめんなさい。困りますよね……忘れてくだ――」
そう言い切る前に、五条の腕がを抱きしめていた。
「えっ……せ、先生……?」
戸惑いに目を見開くの耳元で、五条が小さく息を吐いた。
「……やば……なにこれ」
息の熱が、肌に触れる距離。
「……心臓、止まるかと思った……」
「好きな子に……好きって言われるのって、こんなに……くる?」
その呟きは、自嘲気味で、でもどこか嬉しさが滲んでいた。
は息を詰めたまま、何も言えずに五条の胸に顔を埋める。
「……え? “好きな子”って……」
そう問いかけると、
「うん。……僕の“好きな子”」
その言葉に、の目がゆっくりと揺れた。
まるで、夜空のどこかで星が一つだけ震えたように。
そして五条は、抱きしめた腕を緩めずに、そっとの顔を覗き込む。