第10章 「花は焔に、焔は星に」
煙の残る空気の向こう、処刑台の下で――
硝子が、微かに口元を緩めてこちらを見ていた。
夜蛾も、腕を組んだまま、静かに頷いている。
伊地知にいたっては、顔を覆うように眼鏡を押し上げ、こっそり涙を拭っていた。
(……まだ……わたし、ここに……)
(ちゃんと……いるんだ……)
ただ、その事実だけが、じんわりと胸の底に灯をともす。
そして、耐えていたものが、音もなく崩れ落ちる。
「わたし……わたし、ほんとに……怖かった……っ」
言葉と同時に、ぼろぼろと涙が溢れた。
「……っ、こわかった……!」
そのまま顔を五条の胸に埋め、震える身体で泣きじゃくる。
嗚咽が漏れるたび、心の奥で張りつめていたものが、ひとつ、またひとつとほどけていく。
五条は何も言わず、ただ抱きしめた。
細い肩を、落ち着くまで、ゆっくりと撫で続けながら。
「……頑張ったね」
低く、優しいその声が、芯の奥にまで染み渡るように、そっと耳元に落ちてきた。
は、五条の制服をぎゅっと握りしめたまま、ただ泣き続けた。
その光景を夜蛾が、硝子が、伊地知が、黙って見つめていた。
空気が、静かに澄んでゆく。
遠くで、風が葉を揺らす音がする。
夕焼けは、ゆっくりと藍に溶けていった。
今日の終わりと、
明日のはじまりを、分かつように。
その空は、
静かに――色を変えていた。