第10章 「花は焔に、焔は星に」
「……悠蓮が、蘇ることを隠したかった」
五条が、ちらりと彼女に目を向けて微笑む。
「さっすが硝子、冴えてる」
「――そして、その人物は知っていた。ずっと前から。悠蓮が蘇ることを」
一拍の間のあと、言葉を落とす。
「それは……彼女を守ろうとしたのか、それとも――別の目的があったのか」
そう言って、五条はゆっくりと歩を進めた。
楽巌寺の目前まで来ると、ぴたりと立ち止まる。
「――ま、そういうことだからさ。
を“異端として処刑する”理由なんて、もう無いよね?」
再び、場の空気が張り詰める。
「……おじいちゃん?」
挑発するように五条が微笑むと、楽巌寺は口を結び、鋭い眼光を放った。
「だが……」
老いた声が、静かに場を貫いた。
「呪術ではない。その力で……その他大勢が死ぬやもしれん」
「その力が、いつか災いを為し、深き禍根を残してからでは……いかなる悔恨も届かんぞ」
その声には、揺るぎない意志が宿っていた。
だが、その沈黙を破ったのは――夜蛾だった。
「……楽巌寺学長」
低く落ち着いた声が、静かに重く響く。
「確かに……この世の脅威となる力になるやも知れません」
「だが、“の力”によって――救われた命も、また確かに存在する」
楽巌寺が、ちらりと夜蛾に目を向ける。
「私は……“呪術”の枠を越えたからといって、それが即、悪だとは思いません」
「それがどんな力であれ――“人を生かそうとする意志”がある限り、見守る価値はあると、私は思います」
そして夜蛾は、を一瞥し、最後に言った。
「……我々は、“力そのもの”を恐れすぎているのかもしれません」
「……今は、信じて――見守りませんか?」
沈黙。
楽巌寺は眉を寄せたまま、長く息を吐いた。
だが、もはやその視線には、先程までの激しさはない。
そのまま視線を落とし、言葉を吐き捨てるように呟く。
「……好きにしろ」
そう言って、彼は背を向けた。
楽巌寺が背を向けると同時に、五条が大きく息をついた。