第10章 「花は焔に、焔は星に」
「異端には、相応の罰を与える他ない。
――この世で味わえる限りの苦しみを与え、その魂ごと焼き尽くす。
それこそが、再び禍根を残さぬための“断罪”だ」
五条は、その言葉に薄く笑った。
「昔から“火炙り”ってのは、単なる処刑方法じゃない」
「異端や魔女……この世の理から外れた存在を滅するには、火が最もふさわしいとされてきた」
「肉体を焼き尽くすことで“穢れ”を浄化し、魂の根を断ち切る――再生も、蘇りも、許さない」
五条は一歩、歩を進める。
「つまり、“火炙りで処された魂”は――二度と、この世に戻れない」
そのとき、夜蛾が呟く。
「……だが……の中にいるのは……」
五条は夜蛾の方に向き直り、断言するように言った。
「そう。なぜ火炙りで処刑された悠蓮が今、この現代に蘇ることができたのか?」
五条の声が夜の空気に沈み込む。
誰も答えを返せない沈黙が落ちた。
その沈黙の中、彼は続ける。
「……答えは単純だよ。“処刑された”なんて最初からなかった」
「記録は書き換えられた。いや、“書かされた”んだ。誰かの手で」
ざわめきが走る。
上層部の術師たちが目を見開き、互いに顔を見合わせる。
「それにさ――もうひとつ、変な点がある」
「悠蓮は、“異端の力”を持っていたんだろ?」
そこで五条は、鋭く言い放つ。
「そんな存在を目の前にして、呪術界がただ処刑なんかで終わらせるはずがない」
視線を逸らさず、静かに追い詰めるように言葉を重ねる。
「死体を解体して分析し、記録に残す。危険な力を後世に伝えないために、徹底的にやるだろ」
「――なのに」
「悠蓮に関する記録は、この禁術系譜書ただ一つ。“火炙りで死んだ”という記述しかない」
「……不自然だと思わない?」
五条は声を落とし、言葉を区切るように続ける。
「それは――他の記録が意図的に“消された”からだ」
「逆に言えば、この一冊だけが、都合よく“残された”ということ」
「“火炙りで処刑された”という事実を、後世に信じ込ませるために」
静寂の中、夜蛾が問う。
「……誰が、何のためにそんなことを?」
夜蛾の低い声が、静寂を切り裂いた。
そこへ、静かに硝子が口を開いた。