第10章 「花は焔に、焔は星に」
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「あれ……熱くない……?」
閉じていた瞼を、そっと開ける。
ぼんやりと視界が滲み、淡い光が揺れていた。
は、自分の身体に意識を向けた。
(……燃えてた、はずなのに……)
皮膚の焦げる匂いも、灼熱も、何ひとつ感じない。
息もちゃんとできる。胸も苦しくない。
(……なに、これ……?)
(……私……死んで、ない……?)
足元がふらつく。
その瞬間――視界に、花びらが舞った。
淡い光を受けて、ふわり、ふわりと空を漂う白の輪郭。
それは炎の残滓ではなかった。
むしろ、やさしく降る雪のように、彼女の周囲にそっと寄り添っていた。
(……花……?)
まるで現実に溶けた夢みたいだった。
ざわめきが耳に届いた。
術師たちの動揺、楽巌寺の怒号、誰かの呻き。
でも、どれも現実感がなかった。
ただ、一歩だけ、音を立てて近づく足音があった。
「……先生……?」
声にならない声がこぼれる。
五条が、静かに歩み寄ってきていた。
「よっと」
の背後に回り、縛られていた帯を解いた。
自由になった腕をそっと抱えるようにして、は声を上げた。
「え……え、私、死んだんですか……?」
「はは、まだ死んでないよ」
「……じゃあ……じゃあ、これは一体……どういうことなんですか……?」
困惑と動揺が滲むの声に、五条はニヤリと笑いながら言った。。
「。……昔も、似たようなことあったんじゃない?」
「……え?」
思わず聞き返す。
「高専に入る前、硝子に話したの、覚えてない?」
その日の記憶が、ゆっくりと浮かび上がる――