第10章 「花は焔に、焔は星に」
ふと――
焦げついた空気の中に、
どこからともなく、ひとすじの風が舞い降りた。
灰を撫でるように、静かに、ゆっくりと。
その風に運ばれるように――
ひとひらの白い花びらが、
焼け焦げた空に、ふわりと舞い落ちてきた。
炎を避けるように、煙の帳を抜けて。
焼け焦げることなく、傷ひとつなく。
まるで光そのものを纏ったように、柔らかく。
ひとひら。
また、ひとひら。
赤い火の海に、白が落ちる。
花が降っている――
それは確かに、花だった。
煙の向こうで、何かが揺れた。
本来ならば、全てが燃え尽きているはずの場所から――
一つの人影が、浮かび上がる。
「…………」
誰も言葉を発せなかった。
火は確かに放たれた。
それは誰の目にも、疑いようのない“執行”だった。
だが、その中心にいたはずの少女が――
肌も、衣も、髪も。
焦げ一つ負わぬまま、そこに立っていた。
そして、白い花びらが、またひとつ、
風に乗って落ちてくる。
それが彼女の肩に触れたとき――
「……五条。これは……現実か?」
低く震えるような声でそう呟いたのは、硝子だった。
だが、五条は振り向かない。
ただ、炎の中に残されたを見つめたまま、
その口元に、微かな笑みを浮かべるだけだった。