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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第10章 「花は焔に、焔は星に」


は、顔を上げて彼を見た。


蒼い瞳がそこにあった。
いつも見上げていた、あの瞳。
ふざけていても、優しくて、ときに誰より真剣だった瞳。


その瞬間――


涙が、ひと粒、頬を伝った。



「……先生」



かすれた声だった。
それでも、確かに届いた。



「……ごめんなさい」



言葉を紡ぐたびに、胸の奥がきゅっと締めつけられていく。
けれど、それでも、伝えたかった。



「最後まで……迷惑ばっかりかけて」



もう、涙が止まらなかった。
唇が震え、声も震え、呼吸さえうまくできなかった。



「……逃げ切るつもりだったのに……捕まっちゃった」



下を向きかけた顔を、五条がそっと、視線で止める。
そして、その指先がそっと彼女の頬に触れた。


涙の雫を、まるで宝物でも扱うように、
やさしく拭い取る。


その仕草は、あまりにも優しく――
そして、なによりも、確かだった。


五条は、小さく微笑んだ。



「前にも言ったでしょ?」

「僕は一度だって、迷惑だなんて思ったことないって」



その瞳が、まっすぐにを射抜いた。



「出来の悪い子ほど、可愛いってね」



揶揄うような口調だったけれど、
その言葉の裏に隠された本音は、誰よりも温かかった。


は、また涙を零した。
だけど今度の涙は、悲しみだけじゃなかった。


その時――


五条が、ふと顔を寄せ、耳元で囁いた。



「……。あと少しだけ、我慢して」

「……え?」



戸惑いに瞬いたに、
五条は静かに、目を合わせて言った。



「……僕を信じて」



ほんの短い言葉。
けれど、その声は、魂を貫くほどに真摯だった。


は、何も言えなかった。
心の奥が何かに震えて、言葉を見失った。


五条はそれ以上、何も言わずにくるりと背を向けた。
そして、処刑執行のために定められた位置へと、歩き出す。


足取りは静かで、しかし微塵の迷いもなかった。
の視界から、黒い制服の背中が――少しずつ、遠ざかっていく。


楽巌寺が、低く鋭い声で告げた。



「……手を抜くなよ」



その言葉に、五条はふと立ち止まり、
片手をポケットに突っ込みながら、振り返る。
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