第10章 「花は焔に、焔は星に」
両腕を後ろに回され、柱に押しつけられる。
皮のような帯が、無言のまま彼女の手首に巻かれ、締め上げられていく。
冷たく硬い柱に、背中を預けたまま。
見上げた空は、淡く、薄く、どこか遠い。
その時――
「これより、の処刑を執行する」
ゆったりとした、よく通る声が響いた。
白髪を後ろに束ねた男が、一歩前に進み出る。
威厳と古さをまとった立ち姿。
の目の前で、白髪の老人が言葉を続けた。
「当人は、千年前に処刑された“悠蓮”の系譜に連なるものと見做され――」
「術式によらぬ異端の力、“魔導”を用い、禁術系譜書に記された禁忌への関与を果たした」
「さらに査問会の召喚に応じることなく姿をくらませ、高専の命令を無視して独断で行動。これにより複数の術師および一般人を巻き込んだ」
「これをもって、呪術規定の第一条、第五条、ならびに第十五条に基づき――」
「今ここに、の処刑を執行する」
老人の声は、どこまでも一定だった。
ただ“処理すべき書類”のように読み上げられていく。
(……ああ、ほんとに終わるんだ……)
風が吹いた。
白い衣が、音もなく揺れた。
は、ゆっくりと――静かに、目を閉じた。
そのときだった。
「――処刑執行は、特級術師・五条悟が担うものとする」
耳を疑うような一言が、静寂を破った。
(……え?)
思考が追いつくより早く、目が開く。
光が差し込む中、一つの影が、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
やがて、はっきりとその姿が見えた。
いつもの目隠しは外され、蒼い眼が惜しげもなく光を反射していた。
白髪の長身が、ゆっくりと歩を進め、処刑台の前で静かに足を止める。
(……うそ……)
言葉にならない息が、胸の奥に詰まった。
信じられないものを見るように、の瞳が揺れる。