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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第10章 「花は焔に、焔は星に」


怖かった? 苦しかった?
それとも、もう何も感じなかった?
誰か大切な人を思い浮かべた?


(痛いのかな……苦しいのかな)


想像しようとすると、喉の奥がきゅっと狭まった。
それでも、涙は出なかった。
もう、出し方さえ忘れてしまったみたいだった。


(……結局、みんなには迷惑かけちゃったな)


虎杖くん、伏黒くん、野薔薇ちゃん。
伊地知さんも、硝子さんも。
それから、先生も――。


(これが最善の方法だって……)

(覚悟して出て行ったのに……捕まっちゃって……)


ひとつ、またひとつと、後悔が浮かんでは沈んでいく。
けれど、それらはもはや「痛み」ではなかった。
ただ、過ぎてしまったこととして、胸の奥に静かに積もっていく感覚だった。


(……みんな、ごめんね)


でも、これで終わるから。
もう、誰にも迷惑かけなくてすむ。


(……どうやって処刑されるんだろう?)


ふと、そんな考えが浮かんだ。
自分の命が、どんな風に終わるのか。
誰の手で殺されるのか――。


(……先生に、死ぬところ……見られたくないな)


血だらけで、顔を歪めて、泣きながらなんて。
そんな姿、最後に見せたくない。


最後くらい、少しでも――


(……可愛く、見られたいとか……バカみたい)


そもそも、死んだら――
何もわかんなくなるのに。






……カツン。


突然、廊下から足音が響いた。
ひとつひとつ、靴音が無機質に近づいてくる。


の心臓が、ひときわ大きく脈打った。


ゆっくりと、扉の向こうで鍵の開く音がした。
続いて、ぎい、と鉄の扉が軋む。



「――時間だ」



低く、抑えた声がした。


は、ほんの一瞬だけ俯いて、



「……はい」



静かに、けれど確かに答えた。


そして、膝に置いていた手をゆっくりと持ち上げ、
固い床を踏みしめながら、立ち上がった。


冷えきった足先の感覚は、もうなかった。
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