• テキストサイズ

【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第10章 「花は焔に、焔は星に」


***


どこかで、水の滴る音がした。




それが幻聴かどうかも、もうわからない。
は、ベッドの端に膝を抱えてうずくまっていた。


この部屋に窓はなく、時計もない。


今が、朝なのか夜なのかもわからない。
どれだけの時間が過ぎたのか。
一度、食事のようなものが無言で差し入れられた気がする。
けれど、それが何時間前のことだったかも、もう定かじゃなかった。


(……次に誰かが来た時、私は――死ぬんだ)


そう思った瞬間、胸の奥がじわりと冷たくなる。
肺に入る空気さえ、どこか薄く感じる。


空港での記憶が、じわじわと浮かび上がる。


スーツ姿の男たち。
何も言わず、肩を押さえ、腕を掴み、そのまま無理やり車に押し込まれた。


(怖い、と思う暇さえなかった)


あまりにも現実離れしていて――
これは悪い夢なんじゃないかと、ずっと思っていた。
目が覚めれば、いつもの朝が来ると――そう願っていた。


でも、目覚めた先にあったのは、この窓もない、閉じられた部屋だった。


そして、死刑だと告げられた。
淡々と、ただそれだけを。


冗談でも、脅しでもない。
この密室の空気が、それを何より雄弁に証明していた。


(……これは、逃げた罰?)


あのとき、自分の意思で高専を出た。
先生も、自分の力も、全部振り切って――ただ、迷惑をかけたくなくて。


(それとも、先生を――好きになった罰?)


心の底に沈めていた想いが、そっと顔を覗かせる。


好きになってはいけない人を、好きになってしまった。
その代償が、これなのだろうか。


――罰。


そう思えば、納得がいく気がした。
すべてが、そうなるために決まっていたようにも思えた。



不思議と、死ぬことに対して怖くはなかった。


胸の奥に漂っていたざわめきが、音もなく沈んでいく。
ゆっくりと、深い海の底へ沈むみたいに。


(……悠蓮は、どんな気持ちで最後を迎えたんだろう)


処刑台に立ったとき、何を思ったのだろう。
/ 442ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp