第2章 「はじまりの目と、最強の教師」
午前中の座学を終えたたち一年生は、五条に連れられ、 高専敷地内の廃ビルを模した訓練エリアに立っていた。
無骨なコンクリートの壁、崩れかけた梁、ひび割れた床――すべてが戦闘と検証のために設計された無機質な空間だ。
「今日は軽く模擬戦ね。呪霊は低級だけど、油断したら死ぬよ」
五条がポケットに手を突っ込んだまま、軽く笑う。
「は初めてだから後衛。無理せずサポートでいい」
「……はい」
声は返したが、の足は重い。
目の前の光景は、まるで別世界のように無機質で冷たい。
(……わたし、本当に戦えるの?)
何をすればいいのか、どう動けばいいのか――頭が真っ白になる。
奥から、ねっとりとした呪気が近づいてきた。
姿を現したのは、四体の低級呪霊。異形の目が、真っ直ぐを捕らえる。
「いくぜ!」
虎杖が真っ先に前へ飛び出す。
伏黒が冷静に式神を展開し、釘崎が後方から釘を構える。
(……どうしよう。何を――)
考える間もなく、ひとつの呪霊が床を蹴り、一直線にへ飛びかかってきた。
恐怖で足が動かない。
反射的に、は手をかざした。
その瞬間――。
胸の奥から、灼けるような熱が噴き出した。
全身を駆け抜け、肌の内側から光が咲き溢れる。
視界の端で、無数の花弁のような光片がふわりと舞い上がった。
それは風もないのに渦を描き、を中心に空気が震える。
「――っ!」
呪霊が触れるより先に、白色の閃光が奔る。
目の前の呪霊は形を保つ間もなく影と光に呑まれ、音もなく弾け飛んだ。
(……まただ、この感じ――)
自分が何をしたのか理解できないまま、荒い呼吸の中では呆然と立ち尽くした。
その一瞬、の瞳が鮮やかな翠色に輝いていた。
五条の視線が、それを見逃さなかった。
目隠しの奥で六眼がかすかに揺らぐ。
(今の……間違いない。やっぱり彼女の中には――)
だが、呪霊は消えたはずなのに、光は収まらなかった。
の足元から花弁のような光片が次々とあふれ、渦を巻いて広がっていく。
「……え……? 止まらない……!なんでっ?」